暇つぶしのお友達

日々感じたことや、思いついたことを書きます。貴方の暇つぶしに寄り添うことができたなら幸いです。マイペースでがんばります。

満員電車で思うこと

朝。通勤の電車にて。車内は程々の混雑。隣と接するほどではないが、人の多さは感じるレベル。リュックを邪魔だと思うレベル。キャリーケースを邪魔だと思うレベル。次の駅が来れば満員電車になるだろう、そんな車内。

 

ドアのそばに立つ私。

「〇〇駅~、〇〇駅。お降りのお客様は足元に注意してうんたらかんたら」車掌の勇ましい声が響き渡る。

ドアは今にも開こうとしている。向こうには、人。ドアがひとたび開けば、それらがぎゅるん、と車内になだれ込むだろう。さすればこちら側は地獄と化す。こちら側の人間にとっても、あちら側の人間にとっても、私にとっても、地獄だ。なんとしても避けねばならない。そう、全人類の未来のために。

 

 

私が、英雄になる。

 

 

私が、ここを地獄にさせない。

 

 

ドアに手をかけ、力の限りこじ開けたように見せる。くるりと反転し、あちら側に背を向ける。両腕を目いっぱい広げ、ドアが閉まらないように必死に抑えているように見せる。プルプル体を震わせながら、声を絞り出す。

 

「ここは・・もう・・ダメだ・・い、今ならまだ、間に、合う・・!」

 

背中で語る私。その意味を探るあちら側。不思議な目で見るこちら側。そんな視線に目もくれず、私は叫ぶ。

 

「く・・・ここは、俺に任せて、みんなは、は、早く、逃げるんだっ・・!」

 

チラッと後ろを振り返る。唖然とするあちら側。状況を見守るこちら側。

 

「まもなく発車します。ドアが閉まります。お気をつけください。」

 

とは車掌の声。

 

「ほら!もう、時間が・・無いんだ!!・・早く・俺のことは気にするな!!・・行け!!!」

 

荒ぶる私。去り行くあちら側。怪しむこちら側。

 

私の腕を押しつぶすようにドアが閉まる。そのスピードにあわせて腕をすぼめ、こちら側へ、すんと戻る。

 

辺りを見回すと、私から距離を置くこちら側の人々がいた。あるものは怪訝な目で、あるものは写真を撮り、あるものはあざ笑い、あるものは目を逸らす。

 

 

 

それでいいさ。

 

英雄とはいつの時代もそういうものだ。

 

むしろその態度こそが、英雄となった証だ。

 

こちら側は満員になることは無かった。地獄に染まることは無かった。平穏は無事保たれたのだ。何も無かったかのように電車は次の駅を目指し走り出した。

 

 

 

ていう思考の旅の道中、ここが満員電車であることを忘れていたが、汗ばむおじさんに触れて、ここが満員電車であることを思い出した。

 

 

 

おわり